
環境・素材化学を研究する青栁充准教授にインタビューしました
カスケード型リサイクルの仕組み
パンダ回収隊長
「カスケード型リサイクル」を掲げておられますが、具体的にどのような段階を経て素材を再利用されるのでしょうか?
森林資源は土壌の中で化学構造を変えながら変化して、多段階的に徐々に崩壊し最終的にCO2になります。PETボトルや紙のように同じものに再生する水平リサイクルとは異なり、リサイクルの過程で化学構造を変えて異なる機能を発揮させるのがカスケード(多段階滝)型リサイクルです。
植物細胞壁を構成しているリグニンは大変扱いにくい高分子ですが、森林土壌中で自然に崩壊し、多彩な機能を発揮しています。このリグニンの循環構造を保持した「リグノフェノール」を作っています。リサイクルスイッチを入れると主鎖が解放され、特徴的な異なる化学構造を作る分子設計を組み込んでいます。
高分子ではプラスチックとして使用し、リサイクル後には太陽電池素材や高性能タンパク質吸着材に活用できます。さらに低分子化しフェノールを再生することができます。
青栁 充准教授
雑草を活かす!親水性素材開発の最新成果
パンダ回収隊長
雑草由来の親水性高分子素材開発は、地域資源の活用という観点から注目されていますが、現時点で実用化に近い成果はありますか?
雑草の粉をそのまま親水化した、高分子誘導体が挙げられます。植物細胞壁の化学組成にカルボキシメチルセルロース(CMC)と同様の親水化反応を行うことで,リグニンを含む親水性素材が得られ「土に還る」増粘剤や土壌改良剤として使用できます。
この素材を三次元網目化して吸水性ゲルが調製されます。主流のポリアクリル酸などの高吸水性材料には及びませんが1gあたり30g以上の吸水性をしめします。
さらにこのゲルは細胞壁構造を維持しており、高い生分解性があることが特徴です。
青栁 充准教授
性能評価の基準とは
パンダ回収隊長
耐熱性リグニン材料やリグニン太陽電池、導電複合体など電子材料への応用が期待されていますが、合成と評価で重視されている指標は何ですか?
植物資源は「石油が枯渇したあと」の炭素資源として期待されています。天然由来であるという点が言い訳にならないように、一般の性能評価を軸にしています。そのうえで植物資源利用率を重視しています。
リグニンは細胞壁中で単独では存在せず、必ず7割近い炭水化物と複合しています。循環型炭素を利用するには、リグニンの単独利用ではなく、炭水化物も同様に活用する必要があります。
そのため、合成時の収率と分離後の純度が重要な評価尺度になります。
青栁 充准教授
学生に伝える炭素の流れ
パンダ回収隊長
実際に手で触れながら「人間とは関係なく炭素循環している」ことを感じる機会を作ることを試みています。雑草や樹木などを実際に収穫し、時間とエネルギーをかけて前処理や化学原料化を経験することです。
伐採の現場から実物がなくなり、それが目の前で試料となり、分析データが示され、人間には制御できない機能の発揮を見ます。そして時間経過とともに、伐採現場の残りの植物が枯れてなくなり、再び生育する様子に触れます。
この当たり前に見える光景がいかに精密に制御されているのかを学び、つなげることで循環している炭素の流れを遮断することの意味を考えていきます。
青栁 充准教授
研究の軌跡とメッセージ
パンダ回収隊長
これまでの研究を通して得られたご自身の思い出深い発見やエピソード、そして今後どのような形で社会や学生に貢献していきたいかをお聞かせください。
また、最後にインタビューをご覧になる方々へメッセージをお願いします。
この研究に触れたころ天然物のリグニンが複雑に見えてその制御に懐疑的で、工業化学的な常識に従った様々な「工夫」をしては失敗していました。その中で先達に教えを請い原料から見つめなおし,初めて正しくリグノフェノールを合成できました。
そのきわめて繊細な構造と性質に触れてから、ランダムなため不可能だと考えていた電子の制御を利用した太陽電池や導電性材料を見出すことができました。意外と「シンプル」な直鎖型構造であることがわかり、耐熱性を付与できました。
生物が作り出すものには生物の合理性があり、その循環の流れに沿う形で資源利用する方法を化石資源が豊富にあるうちに、新しい化学のありかたとして提案していきます。
足元に生えている小さな雑草の中で今日も光合成が行われ、人間にはまだ作れない精密な循環素材があたりまえにつくられ、状況が整うと自然に崩壊していきます。
私たちの身の回りには、未利用の資源があります。不思議で精密な仕組みと共に。新しい循環炭素を利用する社会を植物起点の物質の流れから学んで、文化的生活を支えていきましょう。
青栁 充准教授